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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2008-09-27 [Sat]
私は昔から不器用な子供だった。どのくらい不器用かと言うと、縫い物をする際は必ず布地と自分の人差し指をしっかりと縫い付けてしまうくらいに不器用だった。
それは小学生になっても中学生になっても果てや高校生になった今でも克服出来ず、縫い物はおろか料理の際にも火傷をしたり細かい切り傷を作ったりとこまめに発揮されている。
そして今日もまたそうだ。宿直室で料理をする私の手際の悪さをあの人は笑う。私が済ました振りをして弁解すると、焦り狂った手元が塩の入った小瓶をひっくり返してしまう。そしてまたあの人は笑う。私にはそれが悔しくて恥ずかしくて仕方なかった。
そんな私が、何故ぬいぐるみを作ろうなどと思い立ったのかは分からない。気づけば私は古い箱に整えられた裁縫道具を取り出していた。銀色にとがった針の末尾に細い白糸を通す。
通らない。通らない。通らない。通ら……先端の突き刺さった指先から真っ赤な鮮血がぽつり、細く一筋流れ落ちた。色の無い木綿は簡単に緋色に染まっていく。どこかに糸通しがあったはずだ。
斑になった糸をようやく通し終えると、ぱっくりと裂かれた口の端に針先を射し込んだ。柔らかな素材にゆっくりとのめり込んでいく感覚が妙に心地よかった。
この行為はどちらかと言うと修理に当たるのかもしれない。切り裂いたその箇所から、使い古して朽ちてしまった人形の傷んだワタを取り出して、新しいワタを詰め込んで糸でしっかりと蓋をする。たったそれだけの行為だというのに、不器用な私は何度も何度も自分を傷つけてしまうのだ。浅く深く、時には抉るように傷は増えていく。最後の針を通し終えた頃には指先は爛れたようにぼろぼろで、いたるところに血が滲んでしまっていた。
完成した、ぬいぐるみ。私だけの、大事な、ぬいぐるみ。私は奇妙な愛しさを覚えて、自分の身体よりも大きなそれをそっと抱き寄せた。ほんのりと暖かいそれは思った以上に軽かった。
私は昔から不器用な子供だった。それは小学生になっても中学生になっても果てや高校生になった今でも克服出来ず、こんな愛し方しか出来ない私が悔しくて恥ずかしくて仕方なかった。
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