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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2008-04-08 [Tue]
 こんなにも素直に泣けたのはいつ以来だろう。お父さんが首を吊るよりももっと前だった気がする。その頃の私はいろんな意味で純粋で、その分ちゃんとした人間だった。いつからこんな風に斜めに尖ってしまったのかなんて知らない。そんな尖ってばかりの私でもちゃんと人を愛せて、ちゃんとその人の為に泣けるのだと知って安心した。
 古びた本の匂いと膝を抱えて俯いた私の頭を撫でる優しい手は全て私が望んだものではなかった。私は望んでいたのはたった一人の腕の中だったのに、それすらも叶わないままで私は隣に座る彼の優しさを受け入れてしまっている。それは悔しいことだけれど、今の私にはそれに抵抗するほどの余裕なんて何処にも無かった。
「先生は」
 彼の手が止まった。
「先生はきっと向こうの世界で幸せになれるんだね」
 彼がこんなに悲しそうな顔をするのは初めて見た。とっくに気づかれているのに慌てて隠そうといつものように笑う姿は何だか滑稽だった。
「そうだね、きっと向こうの世界で生まれ変わって、幸せになるんだよ」
「今度はちゃんとした名前だといいね」
「そうだね」
「またいつか会えるのかな」
「会えるよ」
「ちゃんとお互い分かるのかな」
「きっと分かるよ」
 私が何も言わなくなったので彼ももう何も答えなかった。いつもはとっくにやって来るはずの夕暮れはまだやって来ない。あの人がいなくなった世界は今日も太陽の日差しを受けて宇宙をくるくる回っている。このまま秋になって冬になって春になってまた夏が来てもきっと何も変わらない。窓の外から差し込む光が大粒の雪に見えた。
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