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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2025-05-15 [Thu]
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2009-09-05 [Sat]
 薬品の匂いと運動部の掛け声。冷たいリノリウムの床と淹れ立てのビーカーコーヒー。私がいつもの場所に座るとその横に先生も座る。
 オレンジ色に照らされる先生の白衣はよく見ると小さなシミだらけで、この前うっかり硫酸をこぼしたときに開いた僅かな穴が袖口にある。この前私が直してあげたシャツの第二ボタンはしっかりと赤い糸で留まっていた。卒業まで落ちなきゃいいな。
「先生、何だか今日のコーヒー薄くないですか?」
「ピンポンです。実はインスタントコーヒーが若干足りなかったんですよ」
 すいません、と笑う先生は私の頭を撫でる。二人で一人分なんてちょっと薄すぎるんじゃないかなって思っていたら、硬球がバットに当たる鈍い音が遠くから聞こえた。近くでは女の子がお喋りする笑い声。ありふれた放課後の風景が私たちには愛おしかった。
 薄いカーテンの向こうを誰かが通るたびに私達は奇妙な高揚感を覚える。決して知られてはいけない恐怖とそれを楽しむ小悪魔な二人。扉に鍵もかけないままいつものように抱き合って見つめ合ってキスをする。先生からは薬品でもコーヒーでも、前に先生の部屋で見たフレグランスでもない、先生が全部混じったような素敵な香りがした。
「やっぱりこのコーヒー薄いです」
「じゃあ帰りに缶コーヒーでも買いましょ。ジャンケンに負けたほうのおごりという事で」
「先生一回もじゃんけんで勝った事がないじゃないですか」
「弱いんです、ジャンケン。君は強いんでしょ? 負けたところを見た事がない」
「不公平じゃないですか」
「ちょうどいいんですよ、僕が負けて、君が勝つ。それでバランスは取れます」
 ジャンケンじゃいつも勝ってるのに、先生には勝てないなぁっていつも思う。前にそんな事を呟いてみたら、勝てないのはこっちです何て返って来た。
 表裏一体、二人で一つ。半分しかない未熟な私達だけど、二人で一人ならちょうどいいんじゃないかなって思った。
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