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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2008-05-20 [Tue]
 もう多分あの春の日から何年も経っていて、私は無意識のうちに何所かが変わったのだけれど何処へも行けないままこの街で何も変わらないような日々を過ごしていた。
 私はなぜこの街に縛られたまま生きて行るのかなんて考えたこともないし考えたくもないし、そもそも考えずとも判り切っている理由が頭をよぎるのだから私は今日もこの道を歩く。いつもと変わりないこの平穏は確かに幸せだけれど何の面白みもないような日々には確かに飽きていて、あの春の日がもう一度来れば私はきっとまたあの素敵な場所に戻れるのだろうと本気で信じていた。
「あれ」
「ああ」
 久しぶりですねと、どちらからともなく口に出た。
「こんなところで何やってるんですか? 糸色先生」
「家庭訪問の帰り道です」
「過程訪問じゃないんですか?」
「今回はちゃんと家庭ですよ」
 変わってしまったのは私だけではなかった。先生も時の流れには逆らえず、私たちの担任だったころよりもずっと落ち着いていて、何だか私のほうが年下なのに大人になりましたね、と褒めてあげたい気分だ。
「……何で頭を撫でるんですか?」
「何ででしょうね」
「風浦さん」
「何ですか?」
「大人になりましたね」
「……先生も大人になりましたね」
 私はもともと大人ですからと言って笑う先生は、春の日差しを受けてとても綺麗だった。あの日の先生は確かに先生で、今日ここにいる先生も確かに先生なのだから。形が変わったってそれは真実で、唯一無二の現実だった。
 だから私はたった一言を口にするだけでいい。あの日々に戻れる魔法の言葉を。いつものように微笑みながらそれを今ここで。
「先生」
「何でしょうか?」
「えっとですね、その―――」
 魔法をかけてあげましょう。出逢った二人の運命に。
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