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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2025-05-15 [Thu]
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2008-08-30 [Sat]
 ごめんなさいと彼女は何度も呟いたのでもういいよとポツリともらすと、今度はすいませんすいませんとまるで普段通りの彼女のような事を繰り返し始めた。別に君は何にも悪くないのに。
「すいません、すいません久藤くん、本当にごめんなさい」
 ライダーマンの右手の鋭い刃先を僕に向けながら眉を下げたまま笑う彼女は何度も同じ言葉を繰り返した。いくら小型でも獰猛なチェーンソーなんて彼女の白くて小さくてか細いその手には似合わない。それでもそれを受けとるのを何となく躊躇っていると、細い指が小さなスイッチに触れた。激しい電動音を手綱に取ろうと必死で取っ手を押さえつけるように握りしめるその顔は見たこと無いほどに晴々とした笑顔が張り付いている。
「や、やっぱり私なんか再殺したくないですよねすいませんすいませんすいませんっ、私のせいで嫌な思いをさせてすいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい申し訳ないです久藤くんが再殺したかったのは」
「嫌じゃないよ、ちゃんと殺してあげるから」
 にこにこ。にこにこ。すいませんすいません。にこにこ。にこにこ。神様はきっと僕を馬鹿にしている。
「加賀さんこそ、僕なんかでいいの?」
「もちろんです」
「ねぇ、本当は誰に殺してもらいたかったの?」
 僕がそう訪ねると彼女はにこにこと微笑んだままこちらに背中を向けた。起動したままだったライダーマンの右手のスイッチをそっと切ると、まるで赤ん坊でもあやすかのように優しくその胸に抱き寄せた。
「いいんです。私知ってます、私達を再殺した後の貴方達がどんな想いで生きていくのか。私は木野くんが好きで木野くんも私を好きでいてくれたから、せめて綺麗な想い出のままで、それでいていつかは消えてしまうような存在でありたいんです。木野くんを苦しめるだけの醜い記憶にはなりたくない」
 そしてまたすいませんと彼女は呟く。繰り返し繰り返し呟くその姿はまるで軽やかに歌でも歌っているみたいで、ならばきっと鎮魂歌なのだろうなと考え付いたりもした。
 最後の幸せを放棄した彼女は彼女のままで、誰かの幸せを願う美しい自己犠牲は、僕らの思う神そのものだった。
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