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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2008-03-28 [Fri]
 彼女が私の元を訪れたのは一週間程前の事だ。
 その日はちょうど梅雨に入ったとのニュースキャスターの言葉を反映するように、酷い雨が地面を叩き続ける音だけが辺りを満たしていた。
 彼女はその中を傘も差さずに歩いていた。
 午後が休診だったので、確か木曜日だった、と思う。いつもなら夕焼けで痛いほど朱く染まるくらいの時間だろうか、診療所には私一人だった。
 いつもこの時間には鍵をかけているはずの扉が開く音がしたので診察室を出て様子を伺うと、入り口にずぶ濡れになった彼女が立っていた。
「こんにちは絶命先生、とりあえずタオルを貸していただけますか?」
 ずぶ濡れになった身体で彼女は笑っていた。
 そのときから妙な違和感を感じていなかったと言えば嘘になる。ただそれがいつもの彼女のブラフなのかそれとも本当に何か起こっていたのか判断材料が一切なかったせいだ、それも言い訳なのだが、そのせいで私は気のせいと思い込む事にした。
 その日から毎日、彼女が訪れるようになった。
 どうせ暇なのだし、迷惑だなんて思ってもいないので追い返す理由もなく、いつの間にか茶飲み友達のようになって他愛もない話をして。
 次の日も。
 次の日も。
 会えば会う程、違和感が少しずつ大きくなって行った。

 そして、珍しく雨の降らない、乾ききった晴れの日だった。
 
「絶命先生、私、先生の事好きですよ?」
 鬱陶しいほどに叫んでいる蝉達に混じって、乾ききった声色で彼女は言った。それがあまりに白々しい嘘のように聞こえたので、思わず私は笑ってしまった。
「望じゃなくて?」 
「もちろんです。どうしてここに絶望先生が出てくるんですか」
「貴女の先生は望でしょう。それよりどうして私、ですか?」
「だって先生は優しいし、大人だし、綺麗だし、それに何より」
 診察台に腰掛けていた彼女は立ち上がり、私の眼の前に立ったと思うと、私の首に自らの腕を絡めて、そのまま、唇を。
「私の事好きでしょ?」
 耳元で囁いた彼女の声は妙に大人びた色香を放っていて、目の前にいるのが本当に彼女なのか疑いたくなる。
「綺麗な顔ですねぇ、二人ともよく似てる」
 そう言って泣きそうに笑いながら私の輪郭を白い指でなぞっていく。私はそれを遮る様にその手を取った。夏前なのにやたらと冷えた手が痛かった。
「好きですよ」
「私もですよ」
 本当に愛しい。取った白い手に口付けながら思わず口からこぼれた。
「愛していますよ」
「そうですか」
「抱きしめてもいいですか?」
「いいですよ」
「やっぱり泣いていたんですね」
 何か言いたげな彼女を遮って腕の中に押し込めた。

 何故あの日に限って雨が降っていたのか。
 何故あの日に限って鍵をかけ忘れてしまったのか。
 何故この日に限って私は自分を抑え切れなかったのか。

 君は私を通して誰を見ている?私によく似た、あの男を見ているのだろう?

 ああ、知っているよ、君が、私など。
 愛していない事なんて。

一応命カフですがな!命先生大好きだ!
基本うちのSSに登場する女の子はカフカです。カフカです。何が何でもカフカです。

カフカは雨にわざと濡れてこっそり泣いてそうだ。
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