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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2025-05-15 [Thu]
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2009-09-05 [Sat]
 好きだよって言ったら嫌いって彼女は言った。どうして嫌いなの? なんだか悲しくて本当になっちゃん俺の事嫌いなのって聞いたら彼女は俺の口を塞いだ。
「弥太の声でそんな事言わないでください」
 ふーんそっか、なっちゃんこいつの事好きなんだ。そうだそうだ、忘れてた。弥太郎はいっつも俺だから。
 そういえば前に言ってたよこいつ。夏輝で遊ぶなって、これ以上傷つけるなって。何だお前ら相思相愛か、若いくせに恋愛語ってるんじゃないよ。おかしくなりそうなんだって二人とも。弥太郎の声で俺に囁かれて、自分の身体でなっちゃんに触られて。
 もういっそのこと二人とも壊してあげようか。弥太郎と俺が一つになってなっちゃんが俺を好きになってくれれば何も問題はないじゃない。
 ―――彼はこの娘の事を何と呼んでたっけ。
「夏輝」
 ピクリと肩が震える。服を握る手にだんだんと力が込められて来た。ああ、そんなに握ったら破れちゃうよ。破れてもいいけどきっとなっちゃんはそのままぎゅってし続けて、自分自身でさえ切り裂いてしまうでしょ? だからもう止めなさい、そんな馬鹿な事は。
「夏輝、好きだよ」
 いやだいやだとなっちゃんは首を小さく横に振る。ごめんね、だって本当に好きなんだもん。狼の姿でも羊の皮を被ってみても君に俺の本当の声は聞こえないでしょ? 俺の声ってどんなのだっけ、なんかえらく低かったような気がする。
「夏輝」
 うわ言みたいに名前を呼べば彼女は震えて拒絶する。暴れないように両腕で抱きしめてやれば素直に胸に顔を埋めてきた。
 なっちゃんは素直で可愛いなあ。これが俺の体だったらいいのにな、若くて綺麗で背も高くて、俺も高かったけどもうちょっとだけ低かったような気がする。
 そういえば俺の身体って今どうなってんのかな、抜け殻でも歳は取るのかな。だったら俺もう爺さんじゃん、駄目だそんなの、なっちゃんと一緒にいられない。変わってなければいいなあ。なっちゃん今幾つだっけ? ねえ、身体探すのやめようか? 二十年後にもう一回探そう? そしたら俺なっちゃんと一緒にいられるんだ、同じような歳で、自分の身体でなっちゃんを愛せるんだよ。
「好きだよ?」
 小さな彼女が胸の中で泣き崩れるのと、身体の中で哀しい悲鳴が上がったのは同時だった。
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