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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2008-04-16 [Wed]
 人を本気で殺してやろうかと思ったのはこれで二度目だった。一回目はいつどんな時だっけ、もうとっくに記憶は埃を被っていてまるで霞の向こう側を見ているようだった。これ程までに明確な殺意を向けてる私を無視するようにもしかしたら気付いていないのかもしれないけど彼だったら無視できる、彼は手にした本に没頭する振りをする為に適当なページに視線を落としていた。その手は五分以上前から新しい世界をめくろうとはしない。
「殺すなら綺麗に殺して欲しいな」
 彼があまりにあっさりとそう言うので何だか拍子抜けしてしまった。
「久藤君はどんな死に方が理想なの?」
「そうだなぁ、あんまり汚い死に方は嫌かなぁ。杏ちゃんはどんな死に方が理想なの?」
「私は死なないよ?」
 精一杯笑顔を作ったにしては異常に歪だったがこれが限界だった。どうして彼はこんなにも人の心の表面から裏側の汚い場所にまで躊躇わずに触れることが出来るのだろう、どうして私の心の琴線に触れるどころか断ち切ろうとして来るのだろうか、私に向けられているこの感情が悪意なのか殺意なのか好意なのか全く見当がつかないせいで妙な恐怖が背中の向こう側を走って行くのが分かった。
「本当に?」
「本当だよ」
「本当は死にたかったんでしょ」
 どうしてそんな事まで分かるというのか、もしかして彼は本当に人の心が読めるのではないだろうか、もしそうだとしたら私がここでこうやって彼と話す事自体が危険な行為ではないか。
「でも」
 彼は本を閉じた。
「僕は杏ちゃんになら殺されても構わないよ」
 どうして彼がそんな事を言うのか理解出来なかった。
「それで杏ちゃんが幸せになれるのなら殺されても構わない。僕が邪魔なら殺していいよ」
 彼は私のスカートのポケットに入っていたナイフを布越しに握ると、私の手を取って柄の部分を握らせた。
「殺したほうがいいよ、僕は君が生きる上できっと邪魔になる」
 だって本当に知ってるんだ、昨日の夜二人に何があったのか。彼が私の耳元で囁くのと私がナイフを取り出して彼の胸を貫くのとはほぼ同時だった。
「どうして」
 どうして殺されてもいい、なんて。言葉に出来なかったのに彼にはしっかりと伝わっていて、やっぱり彼は人の心が読めるんじゃないだろうかと疑ってしまった。彼は最期に笑顔で。
「杏ちゃんが好きだから以外に理由があると思う?」
 自分の為に人を殺したのは初めてじゃない気がした。
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