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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2025-05-15 [Thu]
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2008-12-16 [Tue]
 かちゃん、と耳元で異様な硬質音が鳴り響く。ぴっとりと耳に貼り付く恐怖を伴った冷たさに顔を背けると、後ろにぼんやりと佇む男がにやりと笑った。
「あれ? 怖いの?」
 男はくすくすと笑いながらふう、といやらしく耳に息を吹きかける。いつもなら気色が悪いと一蹴するそれは、強引に感覚を奪われた今では生温くて心地良い物だった。無意識に逃げようと僅かに身を捩らせると、腰の後ろに回された両手が何かに引っぱられてぎしりと音を立てた。
 縛られている。そう気付くまでは一瞬あれば充分だった。
「流石にね、そのままかちゃん、ていうのは可哀相かなって思ったんです」
 痛いのは嫌いでしょう? 椅子に乗せられて身動きが出来ないこの身体卑猥な手付きで撫で回していく。髪を、口唇を、首筋を、胸を、男にしか触られた事のない様な場所から爪先まで残さぬように丁寧に。男は程良く冷えた耳に喰らい付くとそっと何かを囁いた。僅かな感覚も残らない其処から異様なまでに敏感に冴えた身体の奥まで、悪意とも善意とも取れない何かが侵入してくるのを感じて思わず睨み返すと、男は機嫌を損ねた子供の様に口を尖らせて頬に優しく一つ、キスを落とした。
「馬鹿な子」
 男は静かに呟くと、それまで左耳に掲げていた硬質のそれで感覚の研ぎ澄まされた右耳を強く挟んだ。ぐっと反射的に身体を強ばらせると次の瞬間、がちゃんと派手な音を立てると同時に鋭い痛みが全身を襲った。
 気に狂いそうな痛みに悶えて椅子ごと床に倒れ込んだ。がたんと部屋中に響き渡る音が何処か他人事の様に聞こえる。冷たい床の向こうに、組み敷かれたあの時によく似た快感を見付けて思わず笑ってしまった。
 片目だけで見上げた男の顔は逆光の所為で表情までは判別出来なかったが、確かに同じ口元をしていたと思う。男は手を伸ばして来るが今この状態ではその手を握り返す事など出来ず、虚空を切る様に僅かに動かされた指先がやたら綺麗だった。ふと指先を自らに向けて見つめると、ふう、と小さく息を吐いて、目の前に座り込んだ。
「ねぇ一護さん、次は何処にしよっか? 左耳? 舌もありですよ、少しづつ広げて蛇みたいな舌にしてあげる。昔そういう小説流行りましたよね。それともアタシにしか見せない様な場所に空けちゃいます?」
 くすくす、男は楽しそうに笑った。よく見たらちらりと口元から覗く赤い舌先が二つに割れているような気がした。
「アタシと全部、お揃いにしちゃいましょ?」
 二つに割れた舌を持つ者同士のキスはどんな快楽をもたらすだろう。四枚の舌がぺちゃぺちゃ、くちゃくちゃ。艶めかしい水音を立てながら二倍の快楽に身を委ねる、想像しただけでも心の底から震えてしまいそうだ。
「イケナイ子ですね、本当に」
 男はゆっくりと蛇の舌で頬を舐めてくる。まるで欲望の全てを喰らい尽くして行くようなねっとりとした動きだった。既に感覚を取り戻していた左耳を指先でゆっくりと撫でると、再び冷たいそれで挟み込まれて、嗚呼。
 狂った快楽の扉を開けてしまった。
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