忍者ブログ
世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
[221]  [220]  [219]  [218]  [217]  [215]  [213]  [211]  [209]  [207]  [205
2025-05-15 [Thu]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2009-03-07 [Sat]
ぴちゃり、湿り気を帯びた生々しい咀嚼音が彼女の口から漏れ出す。こんなにも品良く食事をするような娘だったろうか、彼女は。やたらと美しい口許の白と紅が織り成すコントラストを呆然と眺めながらふと思った。
ぴちゃぴちゃ、くちゅり。小さな口から覗く鋭い刃の何と愛らしいことか。喰らい尽くすまで歯を立てて舌を這わせるなど余程空腹だったのだろう、それもそうだ、彼女がまともに食にありつけたのは実に三日振りだったはずだ。
「美味しいですか?」
指先を紅く染めてしまった彼女に白いハンカチを差し出した。彼女はそれを受けとると、何事もなかったように澄ました顔で汚れを拭い取る。
「不味いです」
「それは悪い事をしましたね」
不服そうに口を尖らせると食べ滓をぞんざいに放り投げた。転がった指先に面影は無い。どうやら不味くとも残すという選択肢は彼女の美学に反するようだ。
「カーミラじゃないんですから、私」
「そうは言っても私じゃ男はたぶらかせませんよ」
「何言ってるんですか、素質ありますよ先生には」
「なら頑張ってみましょうか、どんなのが食べたいですか?」
「美味しそうであれば何でも」
くすくすと笑う彼女は何よりも美しかった。一筋の光さえ射し込まない暗いこの部屋で輝いているのは彼女だけだ。私の役目は彼女の輝きを永遠のものにする事だ。
すっと白い指が私の首筋を這う。激しく生を叫ぶそこに爪を立てると鋭い痛みも快感となり全身を駆け抜けて行く。それはまるで癒しの女神の様で、小さな手に重ねた手は僅かに震えていた。
「まあ、もう食料の在庫はないですしね」
「あっという間でしたね」
「貴女は本当に良く食べる……まだ足りないんですか?」
「ええまあ。でも先生を食べるつもりはありませんから」
「食料の調達が出来なくなりますからね」
「そうですねそれに」
首筋から抜かれた指は紅く汚れていた。嗚呼自分はこんなにも汚れた生き物なのかと溜息が出そうだ。私が指先から視線を逸らしたのに気づいた彼女はにこにこと笑みを浮かべると、指先を綺麗に舐め取った。ねっとりとした緩慢な動きを魅せる舌先が妙に嫌らしく見える。不意に顎を捕まれて口唇を甘噛みされた。口内には彼女の何よりも愛する鉄錆の味が広がる。
「不味いですから」
PR
TRACKBACK
TrackbackURL:
Copyright © 世界の果てで枯れ果てた All Rights Reserved.
PhotoMaterial by Kun  Template by Kaie
忍者ブログ [PR]