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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2008-05-09 [Fri]
「私、もうすぐ死ぬんですよ」
 彼女はまるでそれが当たり前なのだと言ったように笑った。それは今日の次に明日が来るようなもので、夜眠りについて朝目覚めるのと同じくらい普通の事なのだと彼女は言う。密かに迫り来る死という絶対的な運命を恐れ続けている私にとっては信じられない程異様な感情だった。
「体が悪いのですか?」
「まさか、いたって健康体です」
「では何故」
「それでも死ぬんです」
 それはきっと私が何処へ行こうとも付きまとってくる運命で、どうあがいたって逆らえるものではないんです。例えるなら常に落ち続ける滝の様な物で、私が生きるには凍りつくくらい寒くて痛い冬が来るしかなくて、でも永遠に近い冬が来てしまったとしたら人間なんてひとたまりもないでしょう?だからこの街の皆が生きる為に私は黙って犠牲になるんです。彼女は丘から街を見下ろしながら迷いなくそう言い切った。澄んだ青空を映す澄み切ったその栗色の瞳が何も知らない無垢な少女のように美しかった。
「いつですか?」
「さあ。明日かもしれないし今日かもしれない。もしかしたら一分後にはこの世にいないかもしれません」
 何故、と言いかけて私は言葉を止めた。あまりに理不尽すぎる彼女の死は私には到底理解出来ない。彼女が消えるたった瞬間を想像しただけでもこの小さな頭では何故という言葉しか浮かび上がらない。
「私は嫌ですよ、貴女がいなくなるなんて」
 何て幼稚な言葉だろう。これは私の醜いエゴで、どうしようもない運命の前にどうしようもなく屈するちっぽけな人間の成れの果てだった。それでも彼女は笑って私の手を取って言う。
「それでも仕方のない事ですから」
 それじゃあ、といって彼女は丘を下っていった。一度も振り返らずただまっすぐ前だけを向いている。その視線の先にもう未来はないという事が分かっていてもなお歩こうとする。どれだけ理不尽であろうとも仕方のないことで、やはり彼女も運命に屈してしまった人間だった。
 次の日から彼女が丘に現れる事は一度もなかった。
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