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世界の果てで枯れ果てた
先生と浦原さんと、あとオヤジ。
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2025-05-15 [Thu]
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2008-05-08 [Thu]
 本をめくる丁寧な指先が好きだった。短く整えられた爪先が好きだった。白くて綺麗な手の甲が好きだった。頭を撫でてくれるその温かな掌が好きだった。
 同じ男の私から見ても綺麗だと思えるそれは、やはり誰に聞いても綺麗だと返って来た。いつも通り誰もいない図書室の椅子に座って本に眼を落としている彼の横で床に座って空いた左手を黙って握ったまま、私は心地よい春の暖かさに身を任せていた。
「先生?」
 どうしたんですかと言って私の頭を撫でる右手は窓から差し込む光よりも温かかった。私はこの温かさがとても好きだった。この一瞬の為に生きていると言っても過言ではないくらい依存していた。
「少し、眠くなってしまいました」
「今日は暖かいですからね。眠ってもいいですよ、帰る頃には起こしますから」
「それは少し勿体無いですね」
 そう言って私は笑う。彼も笑う。こんなほんの日常の一時が幸せだという事を知ったのはつい最近の事だ。正確には私の日常に彼が深く関わるようになってからで、それまでの私は人が人として持ち合わせている温もりなんて知る由もなくて、その分今ではこんなにも彼の温もりが愛しく思える。
「せめて手を繋いでいてもらえますか?」
「いいですよ。どうぞ」
 指先を絡めて温もりを互いに受け渡すと、確かな安心感が体中を駆け巡る。これが愛だと知るのはもう少し後の事だった。
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